小説『わたしを離さないで』『日の名残り』(カズオイシグロ著)感想

2018/10/21

本と映画

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2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏の『わたしを離さないで』を図書館で見かけたので借りてみました。以前短編集を読んで面白いな、と思った記憶はあるのですが彼の長編を読むのは初めてでした。




『わたしを離さないで』あらすじと感想

臓器提供のために生まれた子どもたちの成長、そして大人になってからの彼らの様子が主人公の目線で綴られます。

施設の中で育っていく主人公の心情や子どもたちの人間模様、施設を出て臓器提供を待つ生活が淡々と描写されています。
映画『わたしを離さないで』キャリー・マリガン演じる主人公のキャシー
映画『わたしを離さないで』の主人公
(C) 20th Century Fox

こういう”面白い”小説を読むのは久しぶりだった気がします。

小説の結末が気になってどんどんとページをめくる、しかし後2,3割というところで読むスピードが落ちてゆっくりと読み始める。結末を早く知りたいけれど、もっとこの本を読んでいたいから読み終わりたくない……そんな本でした。

かなり重いテーマのはずなのに、そこまで重く感じることもなく、むしろ自分とは共通点のないはずの主人公に共感のような気持ちを感じ始めるのが不思議です。

不条理なことを物心つく前から教え込まれて抵抗することも知らずに大きくなっていく子どもの姿はどこか、一般の人や教育とも重なるところがあるような気が少ししました。

『日の名残り』あらすじと感想

『わたしを離さないで』がとても気に入ったので、図書館にもう一冊置いてあったカズオイシグロ氏の著作、『日の名残り』も借りてきて読みました。

とある屋敷に親の代から仕えている執事が主人公です。彼が屋敷の主から休暇をもらい、かつて屋敷に仕えていた女中に会うため長距離ドライブをする話なのですが、彼の回想シーンが物語の大部分を占めました。

『わたしを離さないで』と違って中々読み進められませんでした。読むのをやめようか迷うほどでしたが、後半になって「やはり読み進めて良かった」と思いました。読み終わって不思議に思ったのは、わたしはこの本にもなぜか共感を覚えたことです。

何に共感したのかと言われると答えづらいのですが、国籍も歳も性別もなにもかもわたしとは違う執事の物語なのに共感できるというのは不思議な感覚でした。

カズオ・イシグロの作品の描き出しているもの

『わたしを離さないで』は特殊な環境を描いているとはいえ、主人公が若い女性なので何か似たような気持ちになるというのは分かるのですが、『日の名残り』にも不思議な共感を覚えたのは面白く感じました。

映画、『わたしを離さないで』のワンシーン。キーラ・ナイトレイ
映画『わたしを離さないで』、主人公の友人
(C) 20th Century Fox

ここにカズオイシグロの本の人気の秘密があるのではと思います。

人種や年齢、時代を越えて人間が持つ何か”本質”のようなものが彼の本には描かれている、そんな気がしました。だからきっと誰が読んでも、「これは私の話だ」と思うのかもしれません。

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